takuya / Sounds of Rice fields
皆さんもよくご存知の田んぼも夜にはその表情を変えます。存在する地域や季節によってもその表情は違ってきます。そんな夜の田んぼとそれを取り巻く里山のサウンドスケープを、立地や生き物の生息分布を熟知した上で、djプレイもしくは曲が展開するように歩いて収録し、最小限の編集でクリップしました。 私はトラックメイカーやdj等をしていますが、ある時から夜の田んぼを歩いたりレコーディングするようになりました。小さい頃から周囲には田んぼが沢山あり、大好きな遊び場になっていました。しかし、首都圏の田んぼには生息している生き物も限られており、図鑑に載っているようなゲンゴロウやタガメ、イモリやサンショウウオ等はまず見ることは出来ませんでした。そのことを大人になった昨今、妙に考えたりするようになり、野生のホタルやスズムシが生息している場所は行ってみたくなりました。そして訪れた長野県北安曇野郡松川村(条例でスズムシを保護している日本有数のスズムシ自然生息地)での神秘的な夜の体験が、この作品につながるすべてのきっかけになっています。 #1. 藤沢市、丸山谷戸 長年住んできた場所から歩いて20分程の所に小さな谷戸田があり、市によって保護されている環境だということを知りました。周囲は住宅地ですがこの一角だけ不自然といえるぐらいに守られた自然環境と特別な生態系が存在していて驚きました。 初夏の録音なのでアマガエルの婚活が最高潮を迎えています。またこの辺では割と珍しいツチガエルが生息しており、その地味に低い声も収録されています。そしてこのレコーダーを構えている後ろではゲンジボタルが沢山舞っています。 #2にも言えますが、神奈川県は旅客機の航路になっているので頻繁にジェット機の音が入ります。 #2. 秦野市、蓑毛 この辺りは綺麗な水が豊富に湧く、神奈川でも稀有な自然が残っている地域です。国道246から少し入っただけの所ですが、ホタルが沢山舞い、神奈川ではなかなか聞けないスズムシの声も聞く事が出来ます。 棚田を取り囲む里山の地形は入り組んでいて、歩きながらエンマコオロギやツヅレサセコウロギ、スィッチョンのウマオイやスズムシ等の生息域を収録しています。鹿避けの電線に感電しながら録音しました。夏の終わりからいよいよ秋に突入するぞという虫たちの勢いが感じ取れます。 因みにクマスズムシという超音波の様なかん高い金属音(キ、キ、キン、キン、キン、キィィーーーン)を出す虫も収録されていますが見つけて頂けるでしょうか? そして最後には、日本一うるさい秋の虫クツワムシの近接録音を収録しました。首都圏では珍しくなった虫ですが、蝉か!という位に群生して乱れ鳴いていました。はっきり言って不快ですね。。 余談ですが私はここでキツネを見ました。しかし地元の方に聞くと「鹿や猪はいてもキツネはいない」と…では私が見たのは。。 それとここには本当に素晴らしい手打ち蕎麦屋があります、日本手打ちそば百名店にも選ばれたそうです。ジャケの写真に見える明かりがそれです。これも余談でしたね。 #3. skit(マツムシ・インタールード) マツムシの鳴く声です。この虫の声を聞けるのも意外とレアになりました。実は田んぼではない場所で収録しました、あくまでインタールードということで。 #4. 安曇野、松川村西原地区 田んぼレコーディングを始めるきっかけになった素晴らしい田んぼです。“スズムシの里”と銘打って村おこしをしている松川村、それだけ聞くと少し胡散臭げに聞こえますが、スズムシというのは環境の変化に弱く、水の汚染や農薬、除草剤の使用等で簡単にいなくなってしまう繊細な生き物で、そんなスズムシが沢山住める位の美しい環境なのです。そんな環境でブランド米“鈴ひかり”を育てて販売しています。購入して食べてみましたが、真っ白で美しく、とても甘みの強い美味しいお米でした。 録音は先ず、田んぼのある里山に入っていく道路から始まります。この辺りは林業が盛んな様で、沢山の杉の丸太を大量に積み込んだ巨大なダンプカーが目の前を通過していきます。 田んぼへ向け歩を進めると虫の声も徐々に増え、やがてスズムシの声も聞こえ始めます。最初に聞こえる1〜2匹の声、この鳴き方は“一人鳴き(リー、、リー、、)”といって、一定のテリトリーを保って生息できる自然種特有の鳴き方で、ペットショップ等で手に入る養殖スズムシは競い鳴き(リーンリーンリーン)がほとんど、この一人鳴きはしないといわれています。 さらに奥へ入っていくと、自然のスズムシ達も競い鳴きを始めます。スズムシは他の鳴く虫に比べ音量が小さいのですが、ここでは沢山生息しているので、その美しい声がよく響いてきます。因みに首都圏でスズムシの声なんてそうそう聞くことは出来ません。実は松川村の他の田んぼも調べてみたのですが、全く鳴いていないような所がほとんどでした。それぐらい生息域が限られているのです。 スズムシ以外にも、低くローローと鳴くカンタンやケラ等の声も聞こえます。 この日は秋に突入した9月6日、長野県はとても冷えていて16℃程しかなかった為、虫たちの鳴き方も全体的にゆっくりで、ピッチも低くなっていました。 そして、ここではあえて書きませんが、最後に偶然のハプニングが起こります。そこには、共に調和して暮らす人々と自然との美しい音風景を収録することができた、とだけ記しておきます。 #5. 田んぼリコンストラクション フィールドレコーディングした素材のみで再構築して一つのトラックにしました。ノイズドロ−ンアンビエントといったところでしょうか。フィールドレコーディングファンの方でお気に召さぬようでしたら飛ばしてしまってください。 【追記】 最新の田んぼサウンドを随時SoundCloudに上げています。様々な名義でのオリジナルトラックやフリーDL ep.等も置いてありますので是非覗いてみて下さい。 http://soundcloud.com/takuyat1003 (Text by takuya) Format:2CD-R Label:-