WAGINASS / WAGINASS
2008年夏に刊行された、女性アート集団“WAGINASS”の作品集。 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――― 〜トーキョーの女の、ホントーのにおい。〜 ちょっと昔、ガングロという現象があった。女の子たちは皆、まるで未開の民族のように、顔を塗り、目や口を鮮やかに縁取りした。まるで、戦いに行くようにみえた。来日したある部族が彼女たちを見て、「あれは、どこの部族だ?」と尋ねたという。 年頃の女の子は、いつだって、男の子の目を気にして生きてきた。流行の服も髪型もメイクも声も、とどのつまりはオスの気をひくための道具であった。しかし、ガングロが全てを壊した。普通の常識的男子はガングロのメイクが理解できない。何故、美点とされた白く透き通った肌は、あんなに黒く厚く塗りつぶされ、目や口は原型がわからないほど描かれ、まるで化け猫のようで、性的な興奮を掻き立てられることがない。明らかに彼女たちはガングロによってオスの気をひこうとしたのではない。彼女たちは誰かの気をひこうとしたのではなく、潰されそうな自分を守ろうと武装したのだ。壊れやすい「少女」としての自分。彼女たちはそれを守ろうとした。男に象徴される平凡な「世界」に出て行くことを拒否し、そこから遠く離れようとした。トーキョーに生きていながら、ある意味トーキョーから隔絶した場所に行こうとした。彼女たちは自分たちがもうすでにどこにも行けないことを知っている。ならば、単にココでない場所に逃げるのでなく、ココにいながらココをココではない場所にするしかない。「少女」から「大人」へ、肉体は明らかに変化する。しかし、彼女たちは神様の決定をヨシとしない。つまり彼女たちは永遠に14歳のままであろうとしたのだ。黒く塗りたくった顔の下には真っ白な震える14歳がいる。「世界よ、私に触るな!」彼女たちはそう宣言するかのようにメイクする。まるで、ハリネズミのように、スカンクのように。しかし、そこには、わかってくれる、やさしいオスは群れない。 ガングロは、歴史上はじめて、女が、男の目と、世界を完全に無視した記念すべき沸点だった。今を生きる若い女たちにとって、性は、まったく変わってしまった。ガングロという失敗を約束された実験は、そのことを教えてくれた。 WAGINASSは、壊れやすい「少女」たちではない。かつてはそうであったのかも知れないが「表現」を手にすることで、男の目からも、世界からも、表現という呪縛からも、自由である。彼女たちが、トーキョーという荒野で、食われもせず、自殺もせず、殺されも、殺しもせず、生きていくには、メイクではなく、このような「表現」が必要なのだ。「表現」の下には、アジア・アフリカ的魂を持った真っ白な14歳がいる。しかしその目に絶望はない!絶望するほど、暇でも、牧歌的でもないのだ。彼女たちは、誰かの気をひこうとするのでもなく、自分を守ろうとするのでもなく、ましてやアートの未来のためなんかでもなく、食うように、排出するように、セックスするように、「表現」が今、必要なのだ。彼女たちは平凡な世界を怖がらない。世界など平凡で当然なのだ。ガングロ少女のメイクの下にいる真っ白な少女、そのフルアップデート後の最終形が彼女たちのベースだ。あたりに漂う強い匂い。 これは、「ナウシカ」以降のトーキョーを生きる、女たちの、ホントーのパンツの匂いだと思う。きっと、近くにやさしいオスもいるのかな。黄色いと思ったら、赤くて、白いと思ったら、黒い。この作品集は、一体どこの部族の本だろう? (パワーショベルブックス 大森秀樹) WAGINASSとは? 2006年、KLEPTOMANIACのよびかけで集まり結成された奇才女性アーティスト集団。 参加アーティスト KLEPTOMANIAC/真保★タイディスコ/mo fo moom/河野未彩/IKON/凛音/SASU/NA2ME/植本一子/菱沼彩子/先/三上絵里子/DACCHIN'/煙巻ヨーコ(BABY-Q)/林絵美子/KAP1000/MOTOKO MIMURA B5変形/316ページ Format:ART BOOK Label:Powershovel Books (JP)