Celer / How could you believe me (LP盤)
(※正式タイトル:How could you believe me when I said I loved you when you know I've been a liar all my life) アメリカ出身の音楽家で現在は日本在住のCelerことWill Longによる、80歳になる叔父とのアメリカ南西部旅行にインスパイアされた、自主制作レーベルTwo Acornsから2015年にリリースされたアナログLP盤。電子ピアノと木笛を使って制作したカセットテープが車のダッシュボードの上で陽にあたって劣化した2曲と、歪んでしまったテストプレス用のレコードの不完全に思いを馳せた2曲を収録したノスタルジック・ドローン・アンビエント作。 数年前、80歳になる叔父とアメリカ南西部を車で旅したことがあった。我々がドライブをしたモアブという場所では、夕方になると夕日が渓谷の壁をオレンジ色に染め、夜中を過ぎると、濃紺の夜空にふわふわの雲が現われては通り過ぎていった。朝になると、太陽にさらされたビュート(孤立丘)が輝いて見え、渓谷の上からの景色は、風と、時折飛んで行く鳥の音をのぞいては完全な静寂に包まれていた。ニードルズ地区にある、何世紀も前の岩面彫刻には落書きが入り混じっていて、錆びたスプレーペイントの缶が砂地に半分埋もれて残されていた。我々はラ・サル山脈の裏道をドライブして、吹きさらしの灰色のコロラド高原を超えて行った。 カエンタ郊外の広々としたモニュメントバレーを過ぎると、遠くのほうにぼんやりと暴風雨が見えた。沿道にはティーンエイジャーのヒッチハイカー達が点在し、簡易な作りの土産店が休日明けの花火の屋台のように寂しそうに並んでいた。砂漠を抜けると、我々はアスペンというスキーリゾートを通り過ぎた。セレブなマンションが立ち並ぶその辺りの一世帯の年収は69,000ドル、一方カエンタでは21,000ドルだ。 何年か後になってカリフォルニアを去ったあと、私は電子ピアノと木笛を使って一連の曲を制作した。その中の2曲が、車のダッシュボードの上で陽にあたって劣化したカセットテープの中にコピーされているのを私は発見した。そして残りの2曲は、歪んでしまったテストプレス用のレコードの中にあった。日本に何年か住んだ後でこれらの作品を再検討してみると、あの旅のこと、そして私がアメリカに置いてきたもののことがすぐさま思い起こされた。テープには歪みやひっかかりがあり、ノイズとホコリまみれだった。レコードには音飛びや音揺れがあり、音が大きくなったり小さくなったりした。けれどもこれらの不完全さは、それぞれの場所の私の思い出、そしてそれらが意味するものを見事に象徴していた。すべてのものには、両端がある。それが我々に変化を起こさせるものかどうかにかかわらず。 (Will Long, 2015) Celer: Celerは東京在住の音楽家、教師、ライター、写真家であるアメリカ人Will Long(ウィル・ロング)によるプロジェクト。元々は2005年にDanielle Baquetとのデュオとして結成されたが、2009年からはソロとして活動している。最近はMikoとのユニットOh, Yokoとして活動しているほか、過去にはChristoph HeemanとのユニットHollywood Dream Tripなどでも活動している。それ以外でもこれまでにHakobune、Machinefabriek、Jan and Romke Kleefstra、Mathieu Ruhlmann、Yui Onoderaなど様々なアーティストとコラボレートしている。またTwo Acornsレーベルを主催する傍ら、Normal CookieやBun Tapesレーベルの運営にも関わっており、さらに写真のウェブサイトを運営している。 http://www.celer.jp/ Side A 1. Bleeds And Swell Blends 2. These Dreams, How Portentously Gloomy Side B 1. Natural Deflections 2. Acrimonious, Like Fiddles Format:LP Label:Two Acorns (JP)